「秘書が“当て逃げ”の武井議員 ドラレコ音声に「行ってしまえ」の声 半年間の取材で見えた事故の深層|TBS NEWS」
政策秘書が起こした当て逃げ事故を発端に、同乗していた武井俊輔衆議院議員が無車検・無保険の疑いで書類送検された。このとき、TBSが独自に報じたのが、ドライブレコーダーに残されていた、武井議員とみられる声での「行ってしまえ」という音声の存在である。ドラレコ音声があるなか、なぜ当て逃げ容疑での武井議員の立件は見送られたのか。事故発生直後から始まった、半年にわたる取材を元に詳報する。 ■宮崎のホープ 宮崎1区・当選4回の武井俊輔衆議院議員。外務大臣政務官などを務め、現在は自民党の国会対策副委員長を担う。その一方で、2019年に私設秘書が、千代田区で酒気帯び運転で事故を起こしていた。そして・・・。 ■独自に掴んだ「当て逃げ」情報 去年の6月8日、政策秘書が運転し武井議員が同乗していた車が、六本木の交差点で自転車に当て逃げ事故を起こした。この車両は武井議員が所有しているものだったが、事故をきっかけに車が無車検・無保険だったことも露見した。警視庁担当の私は、翌9日に一連の独自情報を掴んだ。慎重に事実確認を進め、速報した。 ■「事故には気付かず」「被害者の方には大変申し訳なく・・・」 TBSの報道後、武井議員側からコメントが発表された。「運転していた秘書は被害者から指摘されるまで事故には気づかなかった」とし、被害者に対しては「誠意をもって対応する」とした。偶然が重なり被害者の男性(50代)の所在を突き止めることができた。10日に都内の自宅を訪ねると、最初は警戒していたが次第に打ち解け、怒りを込めながら事故の詳しい状況を説明してくれた。 ■「気づいていないわけがない」 「青信号で横断歩道を横断中に、車が交差点を左折してきた。止まると思ったらノーブレーキだったのでよけようとしたなかで、車の角と自転車の側面が当たった。運転手とはその場で目が合っていたが、そのまま逃げたので150メートルほど追いかけた」 その後、車は停車した。 「駆け付けた警察官に『気づかなかった』と言い張っていたが、警察官に『気づかないわけないだろ』と怒られていた。議員はまったく謝らなかった」 武井議員の対応にも納得できなかったという。 「車にもキズがつき、衝撃を感じたので『気づいていない』とは言っているがそれはないと思う」と腹立たしさをにじませていた。 ■見解の対立 被害者の「気づいていないわけがない」という証言を速報したところ、大きな反響があった。同日、武井議員は取材に応じるも「秘書も自分も気づかなかった」という同じ主張を繰り返した。被害者との見解は対立したままだったが、ここで騒動は一旦はひと段落した。ただ、やはり腑に落ちない点が残る。ここから、半年にわたる取材が始まった。 ■ドラレコに『行ってしまえ』の声 重要な証拠となるのがドライブレコーダーの映像だ。もし映像が残っていれば、そこから新たな事実がわかるのではないか。そう考え、取材を続けた。そして…事故から1週間後、「行ってしまえ」という武井議員とみられる音声が入っていたことが分かった。これは、当て逃げの“教唆“か“ほう助”にあたるのではないか。重要な情報を掴んだと思った反面、別のことを意図した発言の可能性もある。慎重に裏付け取材を進めた。 ■捜査関係者は慎重な見解 複数の捜査関係者に取材をすると「本人の発言である証明が必要」「どういう文脈で発言したのか、本人の意図を確認する必要がある」などと話した。「行ってしまえ」という発言の存在は否定はしなかったが、慎重な見解が大半を占めた。武井議員と政策秘書に対して行う任意の聴取がカギとなると考え、さらに取材を進めた。 ■それでも・・・4回目の当選 10月にさしかかるころ、「武井議員の代理人弁護士が『選挙が終わるまでは調べには応じられない』と話している」そんな話を耳にした。政治家を捜査する場合、政治日程の影響は避けられない。衆院選で武井議員は、小選挙区では落選したものの、比例で4回目の当選を果たした。自民党の強さを実感した。 ■秘書の男性は口つぐむ 事故の核心を知るはずの秘書の男性は・・・。書類送検が近いと判断した我々は、年始に埼玉県内の自宅で直撃取材を試みた。すでに秘書を辞めていた男性は、後輩の記者に対し、インターフォンごしに「話すことは警察にすべて話してある」との回答を繰り返した。 ■とうとう立件 武井議員に当て逃げは認定されたのか・・・? 事故から半年、今年1月5日、警視庁は武井議員と元政策秘書の男性を書類送検した。容疑はともに無車検無保険。秘書は当て逃げと過失運転傷害の疑いでも送検された。一方の武井議員は当て逃げ容疑では立件されなかった。この日地元・宮崎にいた武井議員は取材の申し込みに応じることなく、コメントを出すに止まった。そこには、無車検・無保険容疑に対する見解のみが書かれていた。「当該車輌の所有者の管理者責任の部分が含まれているようだ」「所有者としての義務が欠けていた事は反省している」 被害者に対する謝罪の言葉は、なかった。 ■被害者の怒り「秘書と目が合った」「腰に痛みを感じている」 被害者の男性に改めて取材を申し込み、カメラでのインタビュー取材が実現した。男性は事故後、腰に痛みを感じて3日間寝込み、今も身体に違和感があるという。 「秘書の方と目が合って一度止まって、僕が『危ないだろう』と言っているので気づかないということはない」「武井議員は5分くらい車から出てこなかったと思う。『私は関係ないんで』と言われたときにはあまりにびっくりして間があいた」 ■武井議員からの謝罪はなし 被害者の男性によれば、当初政策秘書の男性から「議員と私でお詫びに行きます」と言われたが、現在まで実現には至っていないという。 「自分の選挙区に帰って雨の中旗を持って『申し訳ありませんでした』ってお詫び行脚をしているのをネットなんかで見ると、まずは誰に謝っているんだって。国の代表なんですから、何かやった時に人に謝るとか普通のことじゃないですか。どこに怒りをぶつけていいのかわからない」 今も拭えない、怒りが感じられた。 ■「逃げろという趣旨ではない」 当て逃げの教唆はなぜ立件されなかったのか?武井議員とみられる「行ってしまえ」という音声の真意はなんだったのか。警視庁は、武井議員が任意の事情聴取に対し、「逃げろという趣旨ではない」と説明したことなどから、当て逃げで立件するには客観的証拠が不十分と判断したという。音声の存在については、書類送検当日に独自情報として報じ多くの反響があったが、納得できない思いは今も残る。国会が開会した1月17日、武井議員に取材を試みたが、「地元でも申し上げた通り捜査の途中ですから、最終的に地検の判断が出たら地元でご説明の場を持ちたいと思います」と語るのみだった。 判断が出たとき、武井議員の口からはどのような説明がなされるのか。しっかりと見届けたい。 TBSテレビ社会部 警視庁担当小曽 めぐみ
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2022-01-25 11:31:50