「必要のない仕事|板倉俊之」

ローテーブルの前で片膝を立てて、僕はネタを考えていた。  無音にしたテレビ画面には、津波の映像や、悲しみに暮れる人々が映っている。  東日本大震災から、数日が経った夜だった。  ゴールデンウィークに単独ライブを控えており、そのチケットはすでに発売されていた。  僕はその台本を書かなくてはならなかったが、どうにも集中することができないのだった。  こんなときに、自分はいったい何をやっているんだ?  いま「面白いこと」を考えるなど、許されるはずがないだろ——。  いっそテレビを消してしまえば、いくらか現実を忘れられるのかもしれないが、僕にはそうする勇気も持てなかった。  このまま当日を迎え

ローテーブルの前で片膝を立てて、僕はネタを考えていた。 無音にしたテレビ画面には、津波の映像や、悲しみに暮れる人々が映っている。 東日本大震災から、数日が経った夜だった。 ゴールデンウィークに単独ライブを控えており、そのチケットはすでに発売されていた。 僕はその台本を書かなくてはならなかったが、どうにも集中することができないのだった。 こんなときに、自分はいったい何をやっているんだ? いま「面白いこと」を考えるなど、許されるはずがないだろ——。 いっそテレビを消してしまえば、いくらか現実を忘れられるのかもしれないが、僕にはそうする勇気も持てなかった。 このまま当日を迎え

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2021-12-17 08:30:56

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